2019/9/5~9/6の2日間、恒例のPMシンポジウムに参加してきたので、いつものように(近年ずっとサボってましたが)レポートします。
9/5 基調講演1
もはやお馴染み感もある楠木教授。PMシンポジウムでの講演も常連になりつつあるが、実は私の所属企業の社内イベントにもお越しいただいて講演していただいたことがある(私はその時は地方勤務でしたので受講できなかったが)。
今回は「好き嫌いの復権」というタイトル。現代のビジネスにおいては「良し悪し」が尺度として使われ、個人の「好き嫌い」は無視される傾向があるが、楠木先生はそんな世間に警鐘を鳴らし、「好き嫌い」こそが競争戦略において重要だと説く。なぜなら、経営には「センス」が必要であり、センスの源泉は「良し悪し」よりも「好き嫌い」であるからだという。
このあたりで一流国内企業の著名な経営者の方々の面白語録が披露される。今回は全体的にアパレルネタで攻めてきており、"LifeWear"でおなじみの某社Y社長、月旅行に行く予定のM社長、某セレクトショップ運営会社のT社長などの発言が引用され、場内は笑いに包まれる。こういうユーモアで聴衆の心を一気に掴んでしまうところが楠木先生の上手いところ。
楠木先生曰く「スキルは訓練や教育で伸ばせるが、センスはそうはいかない」とのことで、これには私も同意するのだが、ではセンスとは先天的なもので、誰にも伸ばしようがないものなのか? それともどうにかして伸ばすことができるのか? センスのない自分としては、この辺りをいろいろ模索してみたいところである。
という具合で、前半は「経営=センス=好き嫌い」というお話であったが、後半は「ビジネスパーソンの仕事との向き合い方」へと話題が移っていく。趣味と仕事を区別するとき、一般的には「趣味=好き嫌い」「仕事=良し悪し」で語られるが、楠木先生は逆に「仕事こそ、好き嫌いが大切」と説く。好きな仕事なら続けられるし、努力も不要(好きなことを頑張るのは「努力」ではない、という理屈)。「負け」もないという。
(このあたりで、某週刊誌の記者が某芸能人のマンションを24時間張り込んでいた時の逸話が飛び出す。その雑誌の編集長?に「君たちはブラック企業を告発するような記事も書いているのに、自分たちの働き方こそ24時間の張り込みがあったりしてブラックではないか」と指摘したら「この仕事(=他人のスキャンダルを記事にすること)が好きなんだからいいのだ」と反論されたという。実例としてはいいんだか悪いんだか。)
この論説は、「仕事を好きになりなさい」と諭された気分であるが、これは私自身よりも後輩(特に若手)に伝えたいメッセージであった。若手にもいろいろいるので一絡げにするつもりはないのだが、自分の目の届く範囲の若手の中にも、「今の仕事を好きでやっていそうな人」と、「収入を得るために、嫌いだけど仕方なく仕事している人」の2種類がいるように思う。後者を頭ごなしに否定するつもりはないのだけど(収入を得ることがモチベーションだという米国的な考え方もあるので)、ただ、それって幸せなのかなあ? とは思う。
ちなみに自分の持論は「好きなことを仕事にする必要はないが、自分の仕事を好きになったほうがよい」である。もっというと、自分は働くのは嫌い(できれば遊んで暮らしたい)なのだが、働かないと生きていけないので仕方なく働いている。んで、どうせ働くのであれば、やってる仕事を好きになったほうが幸せだよね、という考え方で日々過ごしている。
最後に「他人の好き嫌いを尊重し、自分の好き嫌いを押し付けない」ことが成熟した社会の姿である、とのメッセージで講演は締めくくられた。ダイバーシティ<インクルージョン。
9/5 基調講演2
富田氏は、ハウステンボスを立て直したことで有名な澤田社長の片腕ともいえる人物。その辺りを絡めて、ロボットやドローンがどうやって人を幸せにするか? というテーマで講演する…予定だったはずが、楠木教授の講演内容に引っ張られて前半がグダグダに…。(かなりアツくなってたので、可愛い性格の方だなあと感じた。御年71歳とのことだが、まだまだ若くて純粋な気持ちをお持ちのようです!)
講演終盤に"temi"というパーソナルロボット https://www.robotemi.com/ をご紹介しておられ、「これをやるのが私の夢」と語っておられた。以前、社内で新事業創出みたいな取り組みに参加させられたした時に、似たようなことを考えていたので、少し興味あり。
9/5 特別講演
今回のシンポジウムで1, 2を争うすばらしい内容だったが、講演資料がダウンロードできないので所感がうまくまとめられない(汗)。
行動経済学とは、ものすごくざっくり言うと、経済学に心理学を合わせたような学問であり、「合理的でない・利己的でない」人の行動を経済学に活かしていくことを目指す研究分野である、と理解している(違ったらすみません)。
行動経済学を突き詰めていくと、プロジェクトマネジメントにおいてプロジェクトメンバーを動かすことはもちろん、ビジネスにおいて顧客をはじめとするステークホルダーを動かす上でも必ず役立つはず! と感じた…のだが、短い講演時間中に山ほどキーワードや手法が紹介されてメモが追いつかず、いまいち整理できていない。書籍なりセミナーなりで今後も追いかけたいところである。ひとつ言えるのは、人間は案外動物的な判断基準で物事を決めている、ということか。例えば「何かをするたびに毎回ご褒美をあげてると、人はご褒美のためだけに行動するようになってしまう」などなど。
9/6 特別講演
個人的に今回のシンポジウムでNo.1の講演。
"Foresight Creation"とは大阪ガス行動観察研究所がまとめた「新価値創造の方法論」であり、そこに必要とされる能力を「8つの玉」に整理した、というのが主旨。
新価値を創造するための発想を得るには、大きな母数からデータを収集して統計を取るよりも、少数のターゲットに密着して観察するほうが有効だという。この考え方には正直感心してしまった。例えば、高齢者向けの新たなサービスを考えるという取り組みにおいては、ある高齢者に1日密着してその行動を観察した。すると、その観察結果から「高齢者は何かサービスを受けたいというよりも、逆に自分が他人にサービスを提供したいと考えている」という新たな仮説に行き着き、「高齢者が他社に貢献するサービス」を検討するに至ったのだそう。
アンケートやインタビューといった手法では顕在化した(見えやすい)ニーズや機会、課題しか捉えることができないが、行動観察を行うことで新たな気付きが得られ、潜在ニーズを掘り起こすことができるというわけだ。
そして、新しい価値を作り出すにあたっては、「リフレーム」が大切だと説く。リフレームとは、それまで常識とされていた解釈やソリューションの枠組みを、新しい視点や発想で作り直すこと。
e.g.)
動物園の常識:「形態展示」→旭山動物園の「行動展示」
音楽の常識:「音質」→ウォークマンの「外で音楽を楽しむ」
この「リフレーム」が、先に挙げた「8つの玉」の1つ。他にも「統合」や「先見力」などの玉があるそうだ。
講演の後半は、いかに新しい価値を意思決定するか? という方向に話題が進む。ここがまた面白かった。
組織には、イノベーションを阻害する「3つの壁」があるという。
1. 意志決定の壁(新ビジネスがno risk high returnであることを証明しろと言われる)
2. リソースの壁(会社から「人も時間も金もないけど頑張れ」と言われる)
3. 横連携の壁(他部署に「ウチの部署は関係ございません」と突き放される)
この3つ、あるあるすぎる…。どこの会社も一緒ってことかと。
特に1.については、松波氏は「no risk high returnなビジネスは無いので、その中でいかに意志決定するかが重要」という。なにせ、イノベーションは新たな価値を生み出すものなので、どの案が成功するかを事前に目利きすることは非常に困難である。よって、案の是非を判断するにあたっては、「市場で正解かどうか」を基準とするのではなく、「個人の思い」から始めることになる(この点は楠木教授の「好き嫌い」の話にも通ずるものがある! 1日目と2日目で話がリンクした瞬間)。
続けて紹介された「イノベーションが経る3つのステップ」も必笑。
①無視される(関わってもらえない)
②怒られる(そんなもの上手くいくわけないだろうと反対される)
③「それが上手くいくことは最初から分かっていた」と言われる(手柄を横取りされる)
これまた、あるあるすぎる。
これらの「イノベーションを阻害する壁や組織文化」を解決するには、「出島」を作り、既存組織の影響を受けずに取り組むのがよいという。その出島として、行動観察研究所主導でForesight Creationの塾というか共創ラボのようなものを立ち上げ、業種問わずに参加者(参加法人?)を募る予定とのこと。そこではForesight Creationについて学べるだけでなく、そこに集まった人たちとともに実際にイノベーションを発想し(オープンイノベーションですね)、さらにはそれを実現させる場まで提供するつもりだという。これ、非常に興味がある。うちの会社からもぜひ代表者を送り込み、8つの玉を学んできてほしいし、何かを産み出してきてほしい(というか私が行きたい)。
9/5 基調講演1
好き嫌いの復権
一橋大学教授 楠木 建氏
もはやお馴染み感もある楠木教授。PMシンポジウムでの講演も常連になりつつあるが、実は私の所属企業の社内イベントにもお越しいただいて講演していただいたことがある(私はその時は地方勤務でしたので受講できなかったが)。今回は「好き嫌いの復権」というタイトル。現代のビジネスにおいては「良し悪し」が尺度として使われ、個人の「好き嫌い」は無視される傾向があるが、楠木先生はそんな世間に警鐘を鳴らし、「好き嫌い」こそが競争戦略において重要だと説く。なぜなら、経営には「センス」が必要であり、センスの源泉は「良し悪し」よりも「好き嫌い」であるからだという。
このあたりで一流国内企業の著名な経営者の方々の面白語録が披露される。今回は全体的にアパレルネタで攻めてきており、"LifeWear"でおなじみの某社Y社長、月旅行に行く予定のM社長、某セレクトショップ運営会社のT社長などの発言が引用され、場内は笑いに包まれる。こういうユーモアで聴衆の心を一気に掴んでしまうところが楠木先生の上手いところ。
楠木先生曰く「スキルは訓練や教育で伸ばせるが、センスはそうはいかない」とのことで、これには私も同意するのだが、ではセンスとは先天的なもので、誰にも伸ばしようがないものなのか? それともどうにかして伸ばすことができるのか? センスのない自分としては、この辺りをいろいろ模索してみたいところである。
という具合で、前半は「経営=センス=好き嫌い」というお話であったが、後半は「ビジネスパーソンの仕事との向き合い方」へと話題が移っていく。趣味と仕事を区別するとき、一般的には「趣味=好き嫌い」「仕事=良し悪し」で語られるが、楠木先生は逆に「仕事こそ、好き嫌いが大切」と説く。好きな仕事なら続けられるし、努力も不要(好きなことを頑張るのは「努力」ではない、という理屈)。「負け」もないという。
(このあたりで、某週刊誌の記者が某芸能人のマンションを24時間張り込んでいた時の逸話が飛び出す。その雑誌の編集長?に「君たちはブラック企業を告発するような記事も書いているのに、自分たちの働き方こそ24時間の張り込みがあったりしてブラックではないか」と指摘したら「この仕事(=他人のスキャンダルを記事にすること)が好きなんだからいいのだ」と反論されたという。実例としてはいいんだか悪いんだか。)
この論説は、「仕事を好きになりなさい」と諭された気分であるが、これは私自身よりも後輩(特に若手)に伝えたいメッセージであった。若手にもいろいろいるので一絡げにするつもりはないのだが、自分の目の届く範囲の若手の中にも、「今の仕事を好きでやっていそうな人」と、「収入を得るために、嫌いだけど仕方なく仕事している人」の2種類がいるように思う。後者を頭ごなしに否定するつもりはないのだけど(収入を得ることがモチベーションだという米国的な考え方もあるので)、ただ、それって幸せなのかなあ? とは思う。
ちなみに自分の持論は「好きなことを仕事にする必要はないが、自分の仕事を好きになったほうがよい」である。もっというと、自分は働くのは嫌い(できれば遊んで暮らしたい)なのだが、働かないと生きていけないので仕方なく働いている。んで、どうせ働くのであれば、やってる仕事を好きになったほうが幸せだよね、という考え方で日々過ごしている。
最後に「他人の好き嫌いを尊重し、自分の好き嫌いを押し付けない」ことが成熟した社会の姿である、とのメッセージで講演は締めくくられた。ダイバーシティ<インクルージョン。
9/5 基調講演2
AI、ロボット、IoTを社会に活かす
株式会社hapi-robo st 代表取締役社長/ハウステンボス株式会社取締役CTO 富田 直美氏
富田氏は、ハウステンボスを立て直したことで有名な澤田社長の片腕ともいえる人物。その辺りを絡めて、ロボットやドローンがどうやって人を幸せにするか? というテーマで講演する…予定だったはずが、楠木教授の講演内容に引っ張られて前半がグダグダに…。(かなりアツくなってたので、可愛い性格の方だなあと感じた。御年71歳とのことだが、まだまだ若くて純粋な気持ちをお持ちのようです!)講演終盤に"temi"というパーソナルロボット https://www.robotemi.com/ をご紹介しておられ、「これをやるのが私の夢」と語っておられた。以前、社内で新事業創出みたいな取り組みに参加
9/5 特別講演
行動経済学とプロジェクトマネジメント
慶應義塾大学 経済学部教授 星野 崇宏氏
今回のシンポジウムで1, 2を争うすばらしい内容だったが、講演資料がダウンロードできないので所感がうまくまとめられない(汗)。行動経済学とは、ものすごくざっくり言うと、経済学に心理学を合わせたような学問であり、「合理的でない・利己的でない」人の行動を経済学に活かしていくことを目指す研究分野である、と理解している(違ったらすみません)。
行動経済学を突き詰めていくと、プロジェクトマネジメントにおいてプロジェクトメンバーを動かすことはもちろん、ビジネスにおいて顧客をはじめとするステークホルダーを動かす上でも必ず役立つはず! と感じた…のだが、短い講演時間中に山ほどキーワードや手法が紹介されてメモが追いつかず、いまいち整理できていない。書籍なりセミナーなりで今後も追いかけたいところである。ひとつ言えるのは、人間は案外動物的な判断基準で物事を決めている、ということか。例えば「何かをするたびに毎回ご褒美をあげてると、人はご褒美のためだけに行動するようになってしまう」などなど。
9/6 特別講演
新しい価値を生む方法論としてのForesight Creation
大阪ガス 行動観察研究所所長 松波 晴人氏
個人的に今回のシンポジウムでNo.1の講演。"Foresight Creation"とは大阪ガス行動観察研究所がまとめた「新価値創造の方法論」であり、そこに必要とされる能力を「8つの玉」に整理した、というのが主旨。
新価値を創造するための発想を得るには、大きな母数からデータを収集して統計を取るよりも、少数のターゲットに密着して観察するほうが有効だという。この考え方には正直感心してしまった。例えば、高齢者向けの新たなサービスを考えるという取り組みにおいては、ある高齢者に1日密着してその行動を観察した。すると、その観察結果から「高齢者は何かサービスを受けたいというよりも、逆に自分が他人にサービスを提供したいと考えている」という新たな仮説に行き着き、「高齢者が他社に貢献するサービス」を検討するに至ったのだそう。
アンケートやインタビューといった手法では顕在化した(見えやすい)ニーズや機会、課題しか捉えることができないが、行動観察を行うことで新たな気付きが得られ、潜在ニーズを掘り起こすことができるというわけだ。
そして、新しい価値を作り出すにあたっては、「リフレーム」が大切だと説く。リフレームとは、それまで常識とされていた解釈やソリューションの枠組みを、新しい視点や発想で作り直すこと。
e.g.)
動物園の常識:「形態展示」→旭山動物園の「行動展示」
音楽の常識:「音質」→ウォークマンの「外で音楽を楽しむ」
この「リフレーム」が、先に挙げた「8つの玉」の1つ。他にも「統合」や「先見力」などの玉があるそうだ。
講演の後半は、いかに新しい価値を意思決定するか? という方向に話題が進む。ここがまた面白かった。
組織には、イノベーションを阻害する「3つの壁」があるという。
1. 意志決定の壁(新ビジネスがno risk high returnであることを証明しろと言われる)
2. リソースの壁(会社から「人も時間も金もないけど頑張れ」と言われる)
3. 横連携の壁(他部署に「ウチの部署は関係ございません」と突き放される)
この3つ、あるあるすぎる…。どこの会社も一緒ってことかと。
特に1.については、松波氏は「no risk high returnなビジネスは無いので、その中でいかに意志決定するかが重要」という。なにせ、イノベーションは新たな価値を生み出すものなので、どの案が成功するかを事前に目利きすることは非常に困難である。よって、案の是非を判断するにあたっては、「市場で正解かどうか」を基準とするのではなく、「個人の思い」から始めることになる(この点は楠木教授の「好き嫌い」の話にも通ずるものがある! 1日目と2日目で話がリンクした瞬間)。
続けて紹介された「イノベーションが経る3つのステップ」も必笑。
①無視される(関わってもらえない)
②怒られる(そんなもの上手くいくわけないだろうと反対される)
③「それが上手くいくことは最初から分かっていた」と言われる(手柄を横取りされる)
これまた、あるあるすぎる。
これらの「イノベーションを阻害する壁や組織文化」を解決するには、「出島」を作り、既存組織の影響を受けずに取り組むのがよいという。その出島として、行動観察研究所主導でForesight Creationの塾というか共創ラボのようなものを立ち上げ、業種問わずに参加者(参加法人?)を募る予定とのこと。そこではForesight Creationについて学べるだけでなく、そこに集まった人たちとともに実際にイノベーションを発想し(オープンイノベーションですね)、さらにはそれを実現させる場まで提供するつもりだという。これ、非常に興味がある。うちの会社からもぜひ代表者を送り込み、8つの玉を学んできてほしいし、何かを産み出してきてほしい(というか私が行きたい)。